人と文化と自然の交差点

なぜ私たちの目の前にある文化が文化足らしめられているのか、考えていきます。

【国際協力】教育開発・日本と海外の違い

まとめ

  • 90年代までの連携は、個別国において個別のプロジェクトについて息の合った機関との合意に基づくもの。連携プロジェクトは稀。多数の事業が林立。
  • 2000年代から調和化が進む。援助方法論の共通化や開発課題の包括化などの動きが作用して、より多くのパートナーが大きな課題に長期的に関与する仕組みができた。連携の必要性も増した。
  • 視点がドナー中心から途上国中心へ
  • 途上国独自の開発計画を国際的パートナーシップのもとで支援することが一般化

連携

メリット:

  • 援助機関の立場からすれば、単独では十分な効果を発揮できないような複雑・困難な課題に対して、複数のドナーが協力して取り組むことによってそれぞれの強みを生かした支援が可能になる、という利点があります。
  • 途上国の立場からすると、個別のドナーとの協議・重複と漏れを抑制し、効率的に政策目標の実現を目指すことができる可能性が生まれます。
  • 日本の立場からすると、日本の教育協力の補完機能を高め、結果として教育の質・効果の向上を図ることができます。

 

デメリット:

  • 個々の援助機関が独自色を出しにくくなる
  • ドナーの声が一丸となるため交渉力が高まることを途上国が恐れる

という向きもあります。

 

連携が成果をあげるために必要なこと:

  • ドナー間の信頼関係
  • 途上国政府による開発プロセスに対するオーナーシップが本物であること

 

なぜ連携が盛んになってきたのか:

1990年代以降連携が盛んになりました。その理由は以下の3点です。

 

1. 単独支援から援助協調、そして調和化へ

単独支援:

それまでの教育協力は、日本などの二国間援助期間や世界銀行ユニセフなど国際機関が個別に途上国政府と協議しプロジェクト支援するのが一般的でした。

 

援助協調(始まり):

  • ODA(Official Development Assistance)  は二国間援助と多国間援助に分けられます。
  • ODAの調整機構として従来から援助国会議があります。
  • ODA供与国・機関の招集主要な被援助国の開発計画について、情報共有・資金調達計画の策定を含む援助計画協議のため、世界銀行援助国(Consultative Group) 会合を開催します
  • 支援計画の調整:被援助国の援助要請に対して各援助国・機関がそれぞれの援助戦略に基づいて表明する支援計画を、世界銀行が調整します。

 

援助協調(強化・成果重視)

これに変化をもたらしたのが、90年代以降のODA疑問視と先進国の援助疲れによる成果重視です。

  • 背景として、80年代に途上国が直面した経済的麻痺状態から抜け出すために90年代にかけて構造調整が行われました。国際通貨基金(IMF)と世界銀行などが融資をしました。
  • しかし、政治経済的混乱、内戦、食糧難、HIV/エイズの蔓延など難問を抱え、一向に経済的復活の道筋が見えないアフリカの諸国からの現状に対して、ODAの有効性を疑問視したり先進国の間に援助疲れが見え始めました。
  • そして、OECD の開発委員会(Development  Assistance  Committee:DAC)などを中心に、援助の有効性についての検証・援助を効果的にするための条件について研究が行われました。その結果はDAC新開発戦略としてまとめられ、ODAの量を維持拡大・貧困削減と人間開発の現実的な目標の実現を目指すこと等が謳われました。より成果重視になりました。
  • これにより、ミレニアム開発目標(MDGs)の原型が作られ、目標達成のためんい開発パートナーシップの重視、援助協調の強化などが約束されます。

 

調和化(効果重視)

  • その後もDACで議論が続けられ、オーナーシップの重視・調和化(harmonization)・アライメントに向けた努力が求められ、援助国として先進国はこれらの進展をモニターしていくことになりました。
  • 調和化とは、援助手続きを簡素化・共通化することで援助受入途上国の取引費用(transactionn cost)を下げること
  • アライメントとは、援助国が援助受入国の開発計画に整合した援助を行う際、受け入れ国の優先課題、システム、手続きに合わせていくことである。
  • そのための援助の方法論(モダリティ)についても共通化を図る動きに発展し、個別プロジェクトよりもドナー協調によるプログラムを基本とするアプローチ(Program-based approach:PBA)が好感されるn流れを作っていった。
  • 調和化以前は、二国間援助機関が協力することは比較的稀だったが、国際機関が加わることによってレベレッジ効果が発揮され、連携は強化されていった。

 

援助協調の例:みんなの学校技術協力プロジェクト

  • 初等教育の就学率が世界最低水準のニジェールでは、学校建設の供給に加え、親や地域住民の学校教育に対する理解と協力を高めることが不可欠。
  • 当初政府は学校運営委員会の設置を進めたが、上からの改革は成果に限界があった。
  • 日本はJICAを通じて2004年から2007年まで、啓蒙研修の実施や委員選出に住民選挙を導入し、また親や住民が立案から実施に主体的に関わる学校活動計画を行うなど、独自のメニューを組み込んだプロジェクトを実施してきた。
  • この事業を通じて就学機会のみならず、教育の質も改善を見たことから、ニジェール政府は世界銀行からの支援を受け、このモデルを全国全ての小学校において実施する事業に乗り出した。
  • 援助協調は、比較的小さな規模で展開された成功モデルをより大規模に実施することを可能にする。
  • 日本の教育協力はこれまで世銀、ユニセフなど他の機関が率先する事業に相乗りする場合が多かったが、今後はこうした日本がイニシアチブを取る独自の取り組みに他の機関が同調して支援する例が増えることを期待したい

 JICAの強み(事例より):

  • 独自の取り組みにより就学機会のみならず教育の質をあげる
  • 下からの改革を後押しするため、親や地域住民が主体的に実施に関わる学校活動計画
  • 下からの改革は、インクルーシブ教育や女子教育など、社会的差別が就学機会に影響を与える分野で特に大事。

 

 

参考文献:

小川啓一・西村幹子 (2008).  途上国における基礎教育支援